インデックス投資

【全力解説】インデックス投資における複利効果とは何か

インデックス投資の世界でも良く「複利効果」という表現を目にします。利が利を生むことで、指数関数的に資産が増える様子の説明などに出てきますが、それは必ずしも正しくありません。インデックス投資の対象はリスク資産であり、そのリターン(期待される利率)はマイナスにもなるからです。

一方で、リターンの変動に関わらず常時作用する複利効果も存在します。長期投資でこれを軽視すると、損する結果になります。

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そもそも複利効果とは

複利効果の話が出る時、こんなグラフを見せられると思います。

複利効果を説明している図

これはこちらのみらい電卓で数値入力してグラフを描いてもらったものです。年利5%で毎月5万円を積み立てると、30年で倍以上に増えます、ということを示しています。これはそういう複利の毎月積み立て型定期預金があれば確かにそうなります。(約20%の譲渡税の話は無視します。)が、インデックス投資ではこれはありません。理論的には可能としても、現実にはありえません。もしあったら、基準価額がこういうとんでもない形状のカーブで設定来上昇し続けます。期待リターンが常時プラスということは元本割れリスクがないことになります。何かの詐欺でもない限り無理です。

インデックス投資で複利効果を得るには

投資対象が株式の場合、株価の上昇で得る利益を「キャピタルゲイン」と呼びます。配当金から得る利益を「インカムゲイン」と呼びますが、良質な投資信託は配当金をファンド内で再投資するので、インカムゲインはキャピタルゲインと混ざってしまっています。

キャピタルゲインが期待できる時、つまり、株価が上昇している時は、配当金を再投資した資産全体が上昇します。(キャピタルゲインの恩恵を受けて増えます。)この場合、利が利を生む「複利効果」が期待できます。

問題は、株価は必ず変動するという現実です。上昇もすれば、下落もするのです。上昇しかしないなら、みんな苦労しませんよね。

配当金ゼロでも複利効果は得られます

年利5%で毎年複利の定期預金があれば、最初に出たグラフのような素晴らしい複利効果が得られます。それは毎年「元本+利益」が年利5%で増えるからです。複利効果を得るのに、(本来)配当金は不要です。

でもインデックスファンドでは配当金の再投資をからめて説明したがるようです。配当金を再投資すると、「元本+キャピタルゲイン+インカムゲイン」が期待リターンで増えるので、期待リターンが高く、保有年数が長いと破壊的な複利効果が得られます。(良質なインデックスファンドの場合、期待リターンには配当金の再投資が含まれています。)

S&P500の過去28年間

次はS&P500種指数に連動するETFであるSPYの、過去28年間のトータルリターンの推移です。配当金を再投資しています。

SPYの過去26年間のトータルリターンの推移グラフ

リーマンショック前と後で成長の度合いが大きく異なっていますが、大きな変動を繰り返しながらも、長期間で見れば右肩上がりでした。

次は毎月3万円の積立投資を28年間継続した場合のシミュレーションです。

毎月3万円の積立投資を28年間継続した場合のシミュレーションのグラフ

灰色のラインは元本です。赤のラインは評価額で、元本を下回った(含み損になった)時期もありました。2013年ぐらいからはガンガン上昇しました。その後の暴落など屁でもなかったわけです。

結果、元本は税引き前で4.6倍に増えました。確かに、ここでも複利効果は作用しているのですが、実感しにくいです。

配当金の再投資による複利効果

次はSPYの取引価格の推移と、SPYの配当金を再投資したトータルリターンの比較です。

SPYの取引価格の推移と、SPYの配当金を再投資したトータルリターンの比較グラフ

赤のラインがトータルリターンです。配当金を再投資すると、その分も株価上昇の恩恵を受けるので、破壊的な差が生まれます。青のラインはリターン差で、株価が上昇している局面では弓なりに曲がった「複利効果」を認識できます。

次は比較期間を直近10年間に変えたものです。

比較期間を直近10年間に変えたグラフ

青のラインは弓なりに曲がっています。

運用コスト差が生む複利効果

次はスリムシリーズのメリットを説明しているページからの引用です。

運用コストがパフォーマンスに与える影響を説明した図

引用:スリムシリーズ

この図は信託報酬に極端な差があるものを例にしているので、極端な結果になっていますが、主旨は間違っていません。

次はeMAXIS先進国株式と、その廉価版である、つみたて先進国株式のリターン比較です。つみたて先進国株式の設定直後を避けた、2017年9月1日から2021年3月19日までの比較です。

eMAXIS先進国株式とつみたて先進国株式のリターン比較グラフ

eMAXIS先進国株式の信託報酬は税抜き0.6%固定、つみたて先進国株式は税抜き0.2%固定なので、両者の間には税抜き信託報酬差0.4%ポイントがあります。実際には信託報酬以外の隠れコストも考慮すべきですが、ここでは無視します。リターン差を示す青のラインは、年率0.4%ポイントの差が生み出す複利効果で弓なりに曲がっています。

比較期間は3年6ヶ月です。同じマザーファンドで運用している、信託報酬が年率0.4%ポイント異なる2商品の税引前リターンはこうでした。

  • つみたて先進国株式:52.0%
  • eMAXIS先進国株式:49.6%

その差は2.4%ポイントもあります。年率0.4%の差しかないのに、3年半で6年分の差が開いたのです。そうです、これが複利効果です。

信託報酬差をナメてはいけません

次はeMAXIS先進国株式と、その運用コストを年率0.1%ポイント増量したものとの比較です。2010年年初から2021年3月19日までです。

eMAXIS先進国株式と、その運用コストを年率0.1%ポイント増量したものとの比較グラフ

たった年率0.1%ポイントの差に過ぎないのに、青のラインは複利効果で弓なりに曲がっています。そして11年と2ヶ月で3.9%ポイントもの差を生み出しています。0.1%ポイントの11倍だから1.1%ポイントの差、ではないのです。(こういう間違った計算している人、結構います。)それは、年率0.1%ポイントの差も、基準価額の上昇の恩恵を受けるからです。

次は全く同じ比較を、期待リターンの低いeMAXIS先進国債券で行ったものです。左軸のスケールだけ変更しています。

eMAXIS先進国債券と、その運用コストを年率0.1%ポイント増量したものとの比較グラフ

青のラインの弓なりの度合いが下がり、11年間で1.7%ポイントの差に減ってしまいました。

信託報酬差(正しくはトータルコスト差)は、その投資対象の期待リターンの影響を複利で受けます。そして投資期間が長期になるほど大きな差を生み出します。

たまに信託報酬差を見て、資産額がいくらの時に年間何円の差に過ぎないという言い方をする人がいるようですが、それは複利効果を無視しています。その間違った考え方で、信託報酬の安いファンドに乗り換えた方が得かどうかの判断をしてしまうのは、インデックス投資のあるあるです。

マイナスの複利効果

インデックス投資と複利効果の話では、リスク資産に複利効果はなじまない、と良く聞きます。それは冒頭のグラフのようなことは、インデックス投資では期待できないよと、警鐘を鳴らしているのだと思います。

また定期預金の場合、金利はマイナスにはなりませんが、インデックス投資では時期によってはリターンがマイナスになるのは普通です。そして、リターンがマイナスの期間においても、複利効果は作用します。マイナス方向にです。

次はeMAXIS国内債券と、その運用コストを年率1%ポイント増量したものとの比較です。

eMAXIS国内債券と、その運用コストを年率1%ポイント増量したものとのリターン比較グラフ

赤のラインがeMAXIS国内債券です。2016年頃まではリターンがプラスでしたが、その後ほとんど増えなく(俯瞰すると期待リターンがほぼゼロに)なりました。

緑のラインは運用コストを増量したので、2017年以降は期待リターンがマイナスになり、基準価額はどんどん下落します。

青のラインは、この比較期間ではほぼ直線ですが、運用コスト差年率1%が生み出すリターン差を忠実に示しています。

数学的には当然なんですが、複利効果はマイナス方向にも働きます。だからと言って、リスク資産に複利効果はなじまないとは、僕は思っていません

配当金への課税の繰り延べ効果

日本の良質なインデックスファンドは、受益者の資産形成のために税務リスクを負った上で、無分配を貫いてくれています。無分配が資産形成に向くのは、配当金への課税の繰り延べ効果が期待できるからですが、その効果を実感できるようになるにはかなりの年数が必要です。

次の記事で詳しく解説しています。

まとめ:インデックス投資における複利効果は素晴らしいです

その恩恵を享受するには投資期間を長くする必要がありますが、複利効果は確かにあります。相対的に期待リターンが高く、トータルコストが低い、(配当金への課税の繰り延べをしてくれる)良質なインデックスファンドを選択すると有利です。

時々やってくることが避けられない、株価の下落、暴落に耐えて10年、20年買い持ちできた人に、複利効果は大きなリターン、素晴らしい結果をもたらしてくれることでしょう。

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